花粉の季節、到来していますね!この時期にぴったり(?)の詩のご紹介です。

田中宏輔さん作「受粉。」

この作品は36連の言葉遊びによるコラージュ・モンタージュによって「花粉」の正体を暴きつつ「受粉。」させていく作品です。

「花粉」というとどのような姿を思い浮かべるでしょうか?
花の中央にふっくら盛り上がっていたり、ハチに運ばれ団子になったり、顕微鏡の拡大写真はまるで植物系の微生物のようです。また、杉や松の煙のように上がる花粉の姿は圧巻です。……①

また「受粉」についても、想像してみてください。自らの雌しべに着くかどうかや、運ばれ方、例えば風により運ばれるのか、水によるのか、はたまた虫によるのか、鳥によるのかなど、植物の種類や媒介のされ方を考えれば様式は無限にあります。……②

あたかもこのような想像の中から幾つかの言葉を抽出するかのように、言葉遊びにより丁寧に花粉をモンタージュしてゆくのがこの作品です。当てはめる言葉で花粉は、そして花粉を装飾する言葉たちも様相を変えてゆき、徐々にその性質を現してゆきます。21の言葉を受け止めた、36通りのモンタージュ。


まず、各連に共通する、「花粉」の手前までの名詞を抜き出してみます。これらは前述の①に相当し、「花粉」の様子を明らかにしていくために修飾的に使われている語の集まりです。

①…猿、ベンチ、舌、指、庭、顔、部屋、地図、幸福、音楽、間違い、虚無、数式、偶然、歌、海岸、意識、靴、事実、窓、疑問

これは一見、ランダムな名詞の並び順だと思われがちなのですが、具体的なものを表す名詞を⚫︎として、観念的なものや目に見えないものを表す名詞を◯に置き換えてみますとこのようになります

⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ◯ ◯ ◯ ◯ ⚫︎ ◯ ◯ ⚫︎ ◯ ⚫︎ ◯ ⚫︎ ◯ 花粉。……[A]

つまり、花粉の修飾に使われる名詞が、具体的なものからだんだんと抽象的なものを表す言葉にゆらめきながら推移しているのです。

具体的に説明を試みます。⚫︎の代表として最初の「猿」、◯の代表として最後の「疑問」、そして第一連に使われている「を動かす」を使って仮に「花粉。」にモンタージュしてみます。

猿を動かす花粉。
疑問を動かす花粉。

ここでみなさんがイメージされる花粉はどのようなものでしょうか?
私は、前者は猿より大きくて、力持ちの花粉。重いな、よっこらしょ、なんて猿を押したり抱えようとしたりしている。そして後者は煙や概念になった、あるいは鼻から脳内に侵入し脳神経に働きかける地球外ウイルスのような花粉を想像しました。

つまり[A]の構造は後ろに行くにつれ、花粉のイメージを無理なく、具体から抽象、助走から羽ばたきへと手助けし、豊かに膨らんだ面白いものにさせているのです。


次に②に注目していきます。「受粉」するまでの様子を表すものです。

②…を動かす、を並べる、を眺める、を舐める、を吸い込む、を味わう、を消化する、となる、に変化する、を吐き出す、を削除する、を叩く、を曲げる、あふれる、こぼれる、に似た、と見紛う、の中の、に接続した、の意識の、を沈める、おぼれる、と同じ、を巻き込む、の蒸発する、と燃える、に萌える、と群れる、飛び込む、の飛沫の、およぐ、まさぐる、あえぐ、くすぐる、に戻る、をとじる

1~7番目までは「を」で始まり統一感があります。その中では2~4番目の「を」の次が「並べる」「眺める」「舐める」と「な」始まり。4~7まで「舐める」「吸い込む」「味わう」「消化する」は口から取り込んだ時のイメージの展開つながり。8番目の「となる」でいったん区切り、次の9番目「変化する」からは転調。「吐き出す」「削除する」「叩く」「曲げる」という強めの動作が続き、優美な言葉「あふれる」「こぼれる」がクッションとなる。続いて同様に二つずつのそっくりさんの演奏となり「似た」「見紛う」のペアと、「中の」「接続した」のペア。この後者のペアでまた転調。この後、情熱的な言葉「沈める」「溺れる」「巻き込む」「蒸発する」「燃える」「萌える」「飛び込む」「およぐ」「まさぐる」「あえぐ」が続く。この中でも「沈める」「溺れる」ペア、「燃える」「萌える」ペア、「飛び込む」「飛沫」「およぐ」トリオ、「まさぐる」「あえぐ」「くすぐる」ちょいエロトリオと、つながりを意識したちりばめが見受けられる。そして、最後から三番目「くすぐる」でそれまでの強いイメージが和らぐ。そして最後から二番目の「に戻る」で終わりの予兆、最後の「をとじる」で締めくくる。

最後の「とじる」は、受粉して精子にあたるものがとりこまれた様子のように見えました。

このように、①「花粉。」が 36の方法で ②「受粉。」していくストーリーを想像できると、この作品の楽しみ方がぐっと広がると思います。

最終的に私が到達したのは、これは36通りの愛のかたちであるというものです。
花粉、これはいわゆる、人間で言えば精液です。受粉、こちらは花粉が雌しべに付着すること、つまり人間で言えば精液が愛する人に届くこと、性交です。とすると「花粉。」は「恋人」に置き換えても良いでしょう。するともうとてもロマンチックです。くどいかもしれませんが②より当てはめてみます。

恋人を動かす、恋人を並べる、恋人を眺める、恋人を舐める、恋人を吸い込む、恋人を味わう、恋人を消化する、恋人となる、恋人に変化する、恋人を吐き出す、恋人を削除する、恋人を叩く、恋人を曲げる、恋人あふれる、恋人こぼれる、恋人に似た、恋人と見紛う、恋人の中の、恋人に接続した、恋人の意識の、恋人を沈める、恋人おぼれる、恋人と同じ、恋人を巻き込む、恋人の蒸発する、恋人と燃える、恋人に萌える、恋人と群れる、恋人飛び込む、恋人の飛沫の、恋人およぐ、恋人まさぐる、恋人あえぐ、恋人くすぐる、恋人に戻る、恋人をとじる(=ひとつになる)


この「受粉。」というのは言葉に対する愛の賛美歌。まさに春爛漫の詩でありましょう。ふわふわと春に漂う花粉に例え、作者の言葉への愛を綴った詩なのです。

2015/3/12