陽炎(かげろう)

どこかに水はないかと太陽が探している夏の日、陽炎の立つ車道より暑さが手加減してくれそうな歩道の雑草のなかを、前かがみの姿勢で進む男。胸に大事そうに抱いているのは、二本のボトルか。

車に乗った私は男と正面からすれ違い、用事を済ませに走る。あの出で立ちはどこかで見たことがある。どこだったろう。

(暑さは撒き散らしてしまう。昨日見たのは車道の端に、水色のパジャマ、赤い歩行器具を撒き散らした男。川を渡る橋の広い道に、内臓を撒き散らした猫。おびただしい轍(わだち)が毛皮へとなめしていく。)

同じ道を引き返す帰り道。今度は随分と前進した男を、背後から追い抜くほどの時間が経っていた。しかし男は前に見た場所と、ほぼ同じところにいた。

車道を向きまっすぐ立った姿勢から、体を真半分に折り曲げて、太ももの辺りを両手で抱きかかえていた。胸には先ほどのボトルが挟まれている。不自然なポーズ。照りつける南中した太陽。

ボトルのような容器と配線とベストで思い出す。刑事ドラマで爆弾魔が自分に付けたプラスチック爆弾。自爆テロの爆弾ベスト。

しばらくすると路駐して、警察に電話し、状況を分かってもらおうと苦しい説明をしている自分がいた。警察官は男に職務質問をするだろうか。

(自分がもしもその男だったら。)

特殊部隊のように完全武装をした警察官が恐る恐る近づいてきたら。何もなくても「それ以上近づくと火をつけるぞ」と、脅してしまうかもしれない。爆発するはずのない爆弾に、着火させようとするかもしれない。

警棒を片手に、誰かがやってきた。

 

画像:イソギンチャクを住処とする深海のヤドカリの加工写真

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA