シチュー鍋の天使

「68ページよ」と教えられる。68ページ。68という、66でも69でもない数字。

短歌結社「幻桃」の歌会のとき。隣になった和恵さんに、生まれ年を聞かれる。そして存命なら私と同じくらいの年の人の歌集に、興味はないかと問われる。その方の母親と友人だそうだ。68ページというのは、「短歌タイムカプセル」のページ数。

シチュー鍋に背中を向けた瞬間に白い巻き毛の天使がこぼれる/北川草子

1970年に岐阜に生まれ、2000年に病気で亡くなった、北川草子さん。「シチュー鍋の天使」は没後、遺歌集として発行されたそうだ。急な電話や、宅急便が来たなど、何か火を離れる用事があったのか、背中を向けた瞬間に、こぼれてくる天使。きっとクリームシチューなのだなあ。

卒業後、就職して仕事がきつかったようだという話を聞いた。シチューは時間があれば小さな火でとろとろと加熱するもの。少々離れても噴きこぼれることはない。それが離れる瞬間に噴きこぼれたというのは、急いで料理をしていて、強めの火力にしていたのではないだろうか。そんなせわしない日常に、舞い降りた天使。

「今度、北川草子さんの歌集を持ってくるわね」

シチュー鍋の天使は、私のところにも来てくれるのだろうか。幻桃のみなさんはご自分の歌集や、おすすめのものなど、くださったり貸してくださったりする。みんな、天使だ。

 

イラスト:いらすとや

 

 

 

 

One thought on “シチュー鍋の天使

  • 2018-03-02 at 12:53 AM
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    あらゆるところに天使は紛れ込んでいて つり革の向こうで 揺れに準じない人 ぺんぺん草の下で猫とにらめっこしてるあいつ 不意に言葉を失う瞬間に通り過ぎて 気配は消されていたり 注目を集めたり ああ天使なんだなと気づかされる Reply

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