「Anemone coronaria …風の娘…」リルケによせて

「Anemone coronaria …風の娘…」と名付けられたイラストと詩のコラボ。

1頁の絵本 (15)「Anemone coronaria …風の娘…」(イラスト:黒沙鐶ミイカさん 詩:カニエ・ナハさん)
もともと黒沙鐶ミイカさんが描かれた同名のイラストに、詩人のカニエ・ナハさんが詩をつけられたものです。

アネモネの名前 「Anemone coronaria」は、ギリシャ語の「風」を意味する言葉からきています。そこから連想される「風の娘」。

そしてAnemoneを「姉、喪が明けて」と滑り出すカニエ・ナハさんの詩。「あの子」はイラストの「風の娘」と重なります。おそらく、喪が明けた姉の妹なのではないでしょうか。妹の涙、よく見ると小さな水滴のようなものが散っている描写が見受けられ、涙に見立てたのでしょう。

ここで注目したいのが「転がる風が鳴りひびく」という部分です。もともと風はかすれるような音は立てるのですが、鳴り響きません。「転がる」と「鳴りひびく」から連想されるのは鈴。おそらく生前の妹の声が姉の頭の中で鈴のように鳴り響いて止まないのでしょう。

3行目「リルケ詩集」の「読みさしの頁」はもしかしたら、「オルフォイスに寄せるソネット」第二部5、アネモネが出てくる頁かもしれません。

アネモネは花びらがなく、花びらのように見えるものは全て萼(がく)であるという花です。それをリルケは「BLUMENMUSKEL」(花の筋肉)と表現し、力強く、ひたすら開く存在として描いています。「限りもなく受け容れる」存在。そして後述の第二部7で、折りとられた花が死から蘇らせてくれる水を待ちながら、少女とともに花開く。

そして詩の最終行の「紅」。これはイラストの美しい紅色を指すのでしょう。赤いアネモネの花言葉は「君を愛す」。亡くした妹への切なく深い愛情が感じられます。
ただここで、花の筋肉、紅、割れてとくると、連想されるのは女性器です。そこからしたたる「夢魔」。

「夢魔」とは悪魔で、淫魔ともいわれます。夢の中に現れて性交を行い、悪魔の子を妊娠させます。妹の受けたことの恥辱的なイメージが湧いたまま、詩は終わります。喪が開けても、まだ妹の受けた屈辱を忘れられず苦しむ姉の姿。

あまりに切ないので、最後にアネモネにまつわるギリシャ神話の伝説をご紹介します。
花の神フローラの侍女、アネモネ。彼女は西風の神ゼフュロスに見そめられてしまいます。そして嫉妬のあまり、フローラは彼女を花に変えてしまう。
春風がアネモネの花を優しくなでるのは、ゼフュロスが今でも彼女のことを愛しているから。
アネモネに変えられた妹は春風に優しく愛撫され、微笑む。

 滲み出る 夜のスペルマ
 夢魔の種
 --姉、無念。
 紅い春風
 涙の跡を そっと撫で (とよよん)

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